遅刻やクレームの発生、売り上げノルマ未達成への罰としてペナルティを設定しているサロンは一定数あると思います。内容によっては罰金や減給、解雇など様々なペナルティが考えられますが、罰則に対しては法律で明確に定められているため、慎重に対応しなければいけません。今回は労働基準法を再確認し、何が良くて何がダメなのか、どこまでなら法の範囲で対処できるのかをまとめました。法に準じたサロン経営をしましょう。

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ペナルティが科される状況

罰則は就業規則の一環として各サロンが独自に定めているので、サロンごとに異なります。罰金制度を始めとしたペナルティの整合性を見ていく前に、まずはどのような罰則が多いのか見ていきましょう。

まずは遅刻や早退、欠勤に対するペナルティです。これに対するペナルティは、現金での罰金または給料からの天引きや、一定期間の掃除などが多く見受けられます。次にお客様からのクレームによるペナルティです。

返金は自腹で、というサロンもあれば、悪い口コミ評価で歩合の還元率が下がるというサロンもありますが、クレームが来るということはサロンの信用がなくなるということなので、重い罰則を設ける場合が多いように感じます。また、指名や店販などのノルマが達成できなかった時に、給料の減額や降格などのペナルティがあるところもあるそうです。

ペナルティが発生する状況としてはだいたいこんなところかと思います。それでは、これら3つの状況に対する罰として適切な範囲はどこまでなのかをお伝えします。

遅刻、早退、欠勤

結論から言うと遅刻や早退、欠勤に対してペナルティを科すことは可能です。そもそも「ノーワークノーペイの原則」により、働かなかった時間分の給与を支払う必要はありません。どのような理由があるにせよ、働いていなかった分は欠勤控除あるいは不就労控除として給料から天引きすることができます。

しかし、遅刻30分ごとに2,000円の罰金を科すなど、働かなかった分よりも多く罰金として請求する場合には一定の条件があります。労働基準法第91条にその条件が明記されています。

(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

引用元:電子政府の総合窓口e-Gov 「労働基準法」

条件1…就業規則で減給について明記する必要があります。さらにそれをスタッフ全員に周知していなければなりません。個人営業のサロンでは就業規則を明確に定めていないところも多いですが、そういったところでスタッフへ減給処分するのは法律違反です。

どういった場合にいくらの減給が為されるのかを就業規則で明らかにしなければいけません。また、労働基準法で許されているのは「減給の制裁」、つまり天引きのみです。罰金分を貯めて飲み会や食事会に使うサロンも一定数ありますが、現金での徴収は違法なので扱いには気を付けましょう。

条件2…就業規則に違反した分の減給額には上限があります。違反行為一回につき、平均賃金の半額が上限です。また、多くのサロンは月給制を取っていると思いますが、一か月に支払われる給料の十分の一(10%)以内に収めることも決まっています。

減給処分では、就労しているにも関わらずお給料が引かれてしまいます。その金額があまりにも高すぎると生活に支障をきたす場合も十分考えられるため、法律で保護されているのです。ちなみに、何度も遅刻や欠勤を繰り返して減給を重ねて十分の一の範囲に収まらなくなってしまったら、翌月に繰り越すことができます。

条件3…有給休暇を使って休んだ場合や、会社側の都合による休業に対しては減給の対象になり得ません。また、有給を使うと皆勤手当てがなくなるという声も耳にしますが、これは以下の労働基準法附則第136条により禁止されています。

第百三十六条 使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

引用元:電子政府の総合窓口e-Gov 「労働基準法」

以上の条件を守ったうえでペナルティを決めましょう。賃金や休憩時間、休日出勤等に関して労働者は法律で保護されています。これらに関わるペナルティを科す場合には十分な注意が必要です。

仕事中に犯したミスへの対応

スタッフもやはり人ですから、当然間違いを犯すことはあります。時にはお客様からクレームを受けることもあるでしょう。そのような場合にペナルティを科すのは良いのでしょうか?また、どこまでなら法の範囲内で相応しい対応ができるのでしょうか?その答えも前述したものと同様、労働基準法に記されています。

(賠償予定の禁止)
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

(前借金相殺の禁止)
第十七条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

引用元:電子政府の総合窓口e-Gov 「労働基準法」

以上の3つの条文により、あらかじめ罰金額を決めた罰金制度を設けることが禁止されています。また、仕事中のミスで何か物を壊したしまった際にも、それを弁償させることはできません。酔っぱらっていたり、違法ドラッグを服用していたりと明らかな重過失である場合には損害賠償として請求できますが、天引き以外の方法でないといけないので注意しましょう。

しかし、ミスをしても何も罪に問われないのならば、無責任に仕事をする人が出てきてしまうかもしれません。よって、懲戒処分としての罰は認められているのです。どのようなミスをしたらどの程度のペナルティがあるのかを就業規則に明記してスタッフに周知していれば、戒めるために給料から天引きすることや謹慎処分とすることができます。

ただし、前述した第91条にある通り、上限金額はあるので気を付けましょう。また、懲戒として認められるのは、ミスが明らかな故意である場合、度を超すほどミスを何回も繰り返す場合、サロン内の秩序を乱すと判断できる場合です。たとえば職務怠慢や素行不良、セクハラ行為なども対象になります。

ノルマの未達成

ノルマを達成できなかった場合に罰金や給料の減額、個人での買い取りを強要するのはこれまでに紹介した労働基準法に違反しています。ノルマの未達成は懲戒の対象とはならないからです。もちろん、ノルマを設定すること自体は違法にはなりません。サロンが継続して運営していくためにも、最低限の売り上げ基準を明示するのは大切なことですし、スタッフのモチベーションを上げるのに重要な役割を果たすからです。

とはいえ、明らかに達成不可能と思われるチャレンジングすぎるノルマを設定したり、重いペナルティを科したりすることはパワハラとみなされ、もしスタッフに訴えられた場合はサロン側が不利になるでしょう。

それではノルマを設定する意味が半減してしまうと思われる方もいるかもしれませんね。しかし、ノルマの達成・未達成を人事評価に使用することは可能です。就業規則に成果によって昇格・降格を決める旨が明記されて、皆に周知されているならば、ノルマの未達成による降格とそれに伴う減給は認められています。

もっとも、これは適切なノルマの設定がされており、公正に人事評価が為されている場合を前提としていますので、基準を満たしているか不安に思う方は一度客観的にノルマ制度を見直してみると良いでしょう。

もし労働基準法に違反してしまったら

さて、ここまで3つの観点から罰金などのペナルティについて見てきましたが、皆さんが思っている以上にペナルティを科せる条件は複雑で厳しかったのではないでしょうか。ただの嫌がらせやパワハラなどではなく、サロンの規律や秩序を守るために罰則を設定したとしても、一歩間違えば法に触れてしまう危険性があります。労働基準法第117条~120条により、この法に違反した場合は以下のいずれかの罰が下されます。

・1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金

・1年以下の懲役または50万円以下の罰金

・6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金

・30万円以下の罰金

かなり懲役期間や罰金額に差がありますが、これはどの程度の違反かによって変わってきます。当然のことですが、違法内容が重いほど刑罰も重くなるのです。罰金刑にせよ懲役刑にせよ、実刑判決が出された時点で有罪確定、つまり前科が付いてしまいます。

しかも、このような処分の対象となるのは経営者だけではありません。たとえば、普段オーナーが店舗にはおらず、実質的な権限を持つのが店長だった場合、労働基準法第10条で定められた使用者は店長になります。よって、経営者でなくても店長が罰則の対象となるのです。

第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

第百二十一条 この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人である場合においてはその法定代理人(法定代理人が法人であるときは、その代表者)を事業主とする。次項において同じ。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。

○2 事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。

引用元:電子政府の総合窓口e-Gov 「労働基準法」

また、上記に示した通り、違法行為の防止に努めなかった事業主(経営者)も使用者と同様に処罰されます。たとえば、先の例では実質的な権限を持つのは店長でしたが、店長が労働基準法に違反する行為を行っていたとオーナーも知っていたのに止めなかったり、違法行為を提案・推奨したりした場合にはオーナーも店長も両方罰を受けるということです。

ペナルティよりインセンティブを!

このようにペナルティを科すという行為は、かなりリスクの高い行為です。そこで提案したいのがインセンティブの設定!誰だってマイナス面を見るよりプラス面を見た方が前向きになれますし、ペナルティを受けないように必要最低限のことだけこなしていた人が、インセンティブの登場でやる気を出すこともあるでしょう。しかも、ペナルティにはいろいろと制約があるのに対し、インセンティブには諸々の罰則がありません!

サロンのためにも、スタッフのためにも、ペナルティを設けるよりインセンティブを新たに作る方が良いかと思います。それだと給与の過払いで経営が苦しくなるというのであれば、最初の基本給は低めに設定しておき、皆勤手当てや高還元率での指名料還付を始めとした各種インセンティブで低くした分を補うと良いでしょう。

きちんとスタッフに説明したうえで改革するなら、多くのスタッフは賛同してくれると思います。この時点でやる気のない人や技術力が著しく劣る人は辞めていくでしょうし、本当の意味でサロンを改善できるのではないでしょうか。

しかし、「低賃金だとそもそも就職希望者がいなくなる」「経営状況を考えると先々給与を上げるのは苦しい」といった懸念事項があります。この懸念を払拭するのに最適な国の制度があるのをご存じですか?その制度こそ今話題の助成金です。この助成金制度を活用することで得られるお金は原則返済不要。融資や借金と違うのがポイントです。

助成金や補助金制度には、業務効率向上の為に設備導入をすることにより効率化に成功し、給与アップを実現させたら、設備導入にかかったお金の助成が適用されるというものも!美容サロン経営においてメリットの多い制度が豊富にあります。

清く正しい経営で成長サロンに

サロンは小規模のところが多いため、就業規則が曖昧なまま運営していることも珍しくありません。そのような場合は罰を与えること自体が違反行為となってしまいますし、過度なペナルティによってスタッフの定着率も悪くなるなど良いことは少ないです…

皆さん自身のためにも、今一度サロンの在り方や規則を見直したうえで清く正しい経営を実践してもらえたらと思います。それがサロンを良い方向に変える一手となり、もっと高みを目指せるようになるでしょう。あなたのサロンのさらなる成長を願っています。

参考:東洋経済オンライン「従業員への「罰金」はいったい何がマズいのか(2017/3/8)」
参考:戦う弁護士が教える法律ガイド クエストリーガルラボ 【これも違反!?】労働基準法違反になる10ケースと与えられる罰則