建物の老朽化や経営状況の変化などによって、サロンの移転を検討されたことはありませんか?サロンの引っ越しは個人の引っ越しと勝手が違い、荷造りや業者への依頼の他にもやるべきことがたくさんあります。移転の手筈が整わないと、移転当日や移転後に慌ててしまい、業務に影響が出ることも。今回は、移転までに準備すべきことやスケジュールの立て方などをまとめたので、移転を検討している方はぜひ参考にしてください。

移転を決める前に確認すべきこと

そもそも移転することを決める前に確認しておかなければならないことが2つあります。

1つ目は、今借りているサロンの解約時期です。契約内容によっても異なりますが、一般的には15年の契約期間があります。この契約期間を満了させてから移転したい場合は、契約を更新しない旨を貸主に通達しなければなりません。また、解約にあたっては事前の解約予告が必要です。これも契約内容によって3か月前や6か月前など予告時期が異なりますが、最低でも移転する半年前までには契約内容を確認して解約の手続きを始めなければいけません。

2つ目は、何のために移転するのかをはっきりさせることです。移転するにはそれなりに時間やお金が必要になりますし、立地によってはお客様を失うことも考えられます。そのようなリスクを背負ってまで移転する目的は何なのかを明確にしましょう。たとえば、賃借料の安いところに移ってコスト削減をしたい、規模を大きくするために広いところへ移転したい、お客様が来やすいように駐車場が欲しいなど、さまざまな目的が考えられます。目的が定まったら、その後はいよいよ物件探しです。

物件の条件設定と下見

移転先の物件情報を集める前に、移転の目的やサロンの経営状況に合わせて条件をあらかじめ決めておきましょう。たとえば、駅からの距離やスタッフの通勤時間、広さや賃借料、セキュリティなど、希望する条件を細かく決めてください。そのうえで、優先順位をつけることが大切です。

すべての希望条件に一致する物件が見つかればそれに越したことはないのですが、なかなかすべての条件を満たす物件には出会えません。そのため、これだけは譲れないというものから順に優先順位をつけていくと、物件探しの際に便利です。

そうして、良さそうな物件が見つかったら下見をしましょう。その際は、事前に下見で確認しておくべきことをリストアップして持って行くと良いですね。窓の位置や大きさ、コンセントの数や位置、外から分かりやすいかなどの建物に関することはもちろん、騒音の有無や銀行・郵便局への近さなどの周辺環境もしっかり確認しておきましょう。

また、気に入った物件があれば何度か下見に行ってください。昼と夜、土日と平日では大きく様子が変わる場合があるからです。曜日や時間帯をずらして何度か足を運び、そのうえで最も良い物件を見極めましょう。

新サロンのデザイン

物件が決まり契約を済ませたら、次は移転先のサロンのレイアウトや内装などを練りましょう。居抜き物件であればこの過程はだいぶ省略できますが、そうでない場合はここにかなりの時間を割く必要があります。スタッフの動線を確保した座席の配置、照明の色や明るさ、新たに買い足すインテリアや機械など、考えることは山積みです。必要に応じて壁紙を張り替えたり、内装工事を行ったりする必要もあるでしょう。

ここでどれだけ作りこむかによって、その後の働きやすさやお客様からの印象にも影響します。妥協せずにしっかりと考えて、準備を進めていってください。それと、決まった物件の詳細についてはスタッフにも共有しておきましょう。そのうえで、スタッフにも新サロンのレイアウト希望やデザイン案などを募ると良いですね。

また、この時一緒に発注リストを作っておくと、後で発注をする際に便利です。確実に必要なものを揃えるためにも、漏れのないように注意しましょう。

引っ越し作業

物件と移転日が決まったら、複数の業者に引っ越しの見積もりを依頼しましょう。その際には、オフィスや店舗の引っ越しに特化した専用の業者に頼むと安心です。金額や補償などを聞いたうえで、最も条件の良いところを選んでください。すると、業者から梱包資材が届くので、使用頻度の低いものから順に梱包作業をしていきましょう。

他のスタッフにも移転作業について当日までの流れを説明し、梱包作業を手伝ってもらってください。その際、サロンで管理する貴重品(サロン名義の通帳など)や重要書類は安全のために自分で運ぶのが望ましいので、分けて梱包しておきます。その後は移転日まで金庫などに保管しておく、目につきやすいところに「開封厳禁」と記載しておくなどして、他の荷物と明確に区別できるようにしておきましょう。

また、梱包作業と同時にお客様への告知も進めましょう。3か月前には告知できるように準備してください。それよりも前に移転日が確定した場合は、失客防止のためになるべく早い段階で告知するのが好ましいです。

店内に貼り紙を出す。ホームページや予約サイト、SNS等でお知らせ文を掲載する。ハガキやメールで直接お客様に送る。考えられる通達の手段としては、ざっとこんなところでしょうか。それぞれの告知文に必ず記載すべき内容は以下の4つです。

・今の場所での最終営業日
・移転先での営業開始日
・新住所(簡単な地図付き)
・電話番号

可能であればイメージでも良いので新しいサロンの外観写真も入れるとなお良いです。その他に変わる点や、新サロンの特徴などがあれば、一緒に記載しておきましょう。また、これはハガキやメールでしかできませんが、リピート客の方々には担当スタッフに何か一言メッセージを添えてもらうと好印象です。少し手間になりますが、時間があれば試してみてください。

その他、お客様以外のサロン関係者(ディーラーやリース会社など)にも通知するのを忘れないでください。

届け出の提出や移転に伴う変更の申請

サロンを移転する際には、さまざまな届け出や申請が必要になります。最低でも移転する1か月前には動き始めましょう。ただし、保健所への届け出に関しては移転先の工事を開始する前から相談する必要があります。不備などがあった際でも移転日に間に合うよう、時間に余裕を持って準備を進めてください。

電力会社、ガス会社、水道局への連絡はもちろん、必要に応じて保健所、税務署、社会保険事務所、公共職業安定所、労働基準監督署、警察署、消防署、郵便局などに届け出を出さなければいけません。業種や企業形態、地域によって必要な書類は異なるので、詳しくは各自治体の保健所等で確認してください。自分で手続きするのが面倒な方は、行政書士に任せるのも一つの手です。

また、美容室・理容室・まつエクサロンの場合は美容師法に基づいた手続きを行います。そして、美容師法には「移転」という概念がありません。そのため、手続き上は今のサロンの閉業と移転先のサロンの開業2つの手続きを行う必要があります。いざ、届け出を提出するという時に戸惑うことのないよう、頭の片隅に入れておいてください。

ちなみに、電話番号を変える場合は、新しい番号を取得するのに1週間~10日ほどかかります。移転に間に合うように余裕を持って手続きをしましょう。

そして、掲載している予約サイトがある場合は、移転する旨を忘れずに連絡してください。こちらは変更するのにたいして時間がかかりませんが、お客様のことを考えると早めに連絡した方が良いですね。同時にサロンの外観や内観の写真も差し替えておくと、やるべきことを一度に済ませられるので楽です。ついでにSNSやホームページ、ブログの住所や写真も変更しましょう。

参考:株式会社TBCSCAT「美容サロン開業に必須!開業届や必要届出書の種類と時期を解説」

移転当日にやるべきこと

準備がすべて終了しているか、スムーズに引っ越し作業が進んでいるか、密に連絡を取り合うことが大事です。旧サロンから荷物等をすべて運び出したら、入り口や壁など建物に傷が付いていないかを確認してください。そして貴重品類を持って新サロンへ行き、どこに何を置くか指示します。搬入作業が終了したら、すべて揃っているか、建物や荷物に傷が付いていないか確認しましょう。

その後はすぐに荷解きをするのではなく、まずは新しいサロンの様子を確かめましょう。電気や水道は通っているかどうか、ガスは使えるか(ガスは開栓に立ち会う必要があります)、水漏れはないか、エアコンなどの設備は問題なく動くかなど、一つひとつチェックして問題があればすぐに管理会社へ連絡してください。一通り確認作業が済んだら荷解きを始め、営業開始日までにサロン内を整えます。

移転後にやるべきこと

移転後は何よりもまずご近所への挨拶回りをしましょう。今後、その地域で上手く営業していくための第一歩です。ビル内のテナントを借りている場合は、同じビル内の店舗や住人すべてに挨拶しましょう。後々のトラブルを避けるためにも全員に挨拶することが大切です。また、住居の引っ越しでも「向こう3軒両隣」といわれるように、向かいや両隣、場合によっては前後に位置する住宅や店舗にも必ず挨拶してください。

できれば直接挨拶するのが望ましいですが、留守にしがちな家もあると思います。そのような場合には挨拶状をポストに入れておきましょう。挨拶状は、移転前に既存のお客様に告知した内容とほとんど同じものを作っておけば問題ありません。移転に伴って何かイベントを行ったり、クーポンを作ったりするのであれば、その内容も入れておくと新規顧客獲得のきっかけになりやすいです。

また、サロンの宣伝とは別に、地域で良好な関係を築くために同じエリアの競合サロンや地域の集会所、近くの交番にも挨拶に行くと良いですね。

また、旧サロンのことも忘れてはいけません。不要になったものをリサイクル業者に売ったり、廃棄処分したり、工事をしたりして原状回復をする必要があります。原状回復にかかる費用は規模や立地、社会状況によって大きく変わりますが、たとえば一般的な美容室であれば解体費用で1坪当たり8,00012,000円、廃材処分費用で1坪当たり8,00013,000円といわれています。

この金額はあくまでめやすでしかありませんが、一番初めの見積もりではかなり高い金額を提示されることが多いので、判断や交渉の材料としてください。

さらに悩ましいのが、どこまでをサロンが原状回復するのかということです。貸主側と認識が食い違っていると思わぬトラブルに発展してしまうかもしれません。きちんと契約書を読み込んだうえで、貸主に確認を取っておくことをおすすめします。一番良いのは契約をする時点で原状回復について明確にしておくことです。

原状回復にはかなりの費用がかかるため、元に戻さなくても良い範囲をあらかじめ定めてもらったり、居抜き物件として扱ってもらえるよう交渉したりすると、後々サロンを閉業する時に楽になります。

参考:原状回復コンシェルジュ「美容院の原状回復についてスタイリングチェアやシャンプー台はどうするの?」

急ぎではないが、移転後にやるべきこと

サロン名義の銀行口座やクレジットカードの住所変更は、時間がある時に行いましょう。優先順位は低いので、他のことが落ち着いてから対応してください。ただし、融資や補助金を受ける際には口座情報が必要になるので、なるべく早めに手続きするようにしましょう。それから、スタッフに交通費を支給しているサロンは、改めて通勤手当を見直す必要があります。給料日までに経費精算が間に合うよう、スタッフに申請を促しましょう。

また、名刺を用意しているのであれば、新しいサロンの名刺に作り変えなければなりません。手が空いた時にでも発注をかけておくと良いですね。

ちなみに先述した税務署などへの届け出ですが、移転後にも訪問して手続きをしなければならない場合があるので、どの書類をいつまでに提出しなければならないのかを必ず確認しておきましょう。

移転する際に集客で気をつけること

移転の大まかな流れは以上の通りです。最後に、サロンの移転で失客しないための対策をお伝えします。

場所や建物が変わることで新しいお客様が来店するようになり、サロンの雰囲気も変わります。それは必然的な変化ではありますが、そのせいで既存顧客が離れていってしまう恐れがあるのです。新規顧客が増えても既存顧客が減っては意味がありません。特に、よく来店してくださる常連のお客様はなるべく継続して来ていただきたいですよね。ですから、常連のお客様こそ大切に接客しましょう。

移転後しばらくはリニューアル記念イベント等で忙しくなることも多いです。そんな時は「いつも来てくれるし、お店のことも分かってくれているから」と信頼関係に胡坐をかいて、常連客の対応を後回しにしたり、十分に時間をかけられなかったりします。そうするとお客様は「新しいサロンになってから対応が雑になった」と感じ、他のサロンに行ってしまうのです……。

忙しくても気遣いは忘れずに接客しましょう。また、サロンの雰囲気や客層が変化することによって違和感を覚える常連のお客様もいます。サロンが変わってもスタッフやサービスの質は変わっていないことを示すためにも、今まで通り誠心誠意対応することが重要です。

ただし、これは客層を変えたいと思っている場合には、逆にお客様を選び直す良い機会になります。お客様の質を高めたい、サロンのブランド力を上げたいという方は、移転リニューアルではなく新規店舗を開店するつもりでメニューや値段を変えたり、接客の仕方を見直したりしてみるのも良いでしょう。

移転前後の準備・対応は入念に

今回は移転する際に抑えておくべきポイントを流れに沿って説明してきました。移転する前には時間をかけてしっかりと準備をする必要があります。動き始めるのは遅くとも半年前から。早ければ早いほど良いです。準備にどれだけ時間を割けるかが移転後の成功・失敗を左右するので、むしろ早すぎることはありません。

また、引っ越しが完了した後も気を抜かず、諸々の手続きを終えてサロンワークが落ち着くまでは細かいところまで気を配りましょう。

どのサロンでも「今の状態よりも良くしたい」と思って移転を決めるはずです。その想いが叶えられるよう、このコラムの内容を参考にしながら準備に取りかかっていただけたらと思います。